お説教とマドレーヌ

忘れたくないこと。トキめいちゃったら投稿します。

今も僕を守ってくれる場所──LAWSON presents 麻倉もも Live 2020 "Agapanthus"

はじめに

trysail.jp 11月のことになるが、麻倉ももさんのライブイベントに両日とも現地参加してきた。

COVID-19の流行が叫ばれて久しいこの情勢において、イベント・コンサートに対しての世間の目は特に厳しいものがあった。そのような中、例え当初の予定より十全なものではなかったにせよ、日を変え場所を変え、そして、もしかするとメッセージ性をも変えてライブを完遂した麻倉ももさん、およびスタッフの皆さんには感謝をしてもしきれない。

ちなみに、2日間公演のうち2日目については、12/30 23:59まで有料配信およびライブのアフタートークを見ることが出来る。残り期間が僅かとなってしまっていて、もう少し早くこの記事を投稿出来ればよかったのだが、是非その目で見て欲しい。

trysail.jp

僕だけに見える星 (初回生産限定盤) (特典なし)

僕だけに見える星 (初回生産限定盤) (特典なし)

  • アーティスト:麻倉もも
  • 発売日: 2020/11/11
  • メディア: CD

もくじ

麻倉ももさんと私

初めに弁解しておくと、私は麻倉さんの熱心なファンとは言えないと思う。アイドルマスターミリオンライブ!をきっかけに知り、ミリオンのライブやラジオを通して麻倉さんの輪郭をなぞる程度であった。加えて、出演作のうちいくつかを(麻倉さんを目的とした訳ではなく)たまたま見たりだとか、ソロアーティストデビュー後は楽曲を多少は聞く、といった程度である。1stアルバム 『Peachy!』 のライブには4公演中1回のみ参加した。

そのため、麻倉さんのパーソナルな部分であるとか、従来からの変化、といったコアな視点ではファンの方には敵わないことをご容赦願いたい。

さて、そのような中でこのライブに参加したのは、麻倉さんと彼女の曲をある程度知っているということに加え、なにより、一度中止になったライブをどのように結実させるのか、といった興味であった。

アルバム『Agapanthus』の発売とライブツアーの中止、今回のライブの開催

そう、前述の通り、11月に行われたこのライブの前身にあたるライブツアーは延期、のちに中止の憂き目にあっている。2ndアルバム『Agapanthus』は2020年4月8日に発売され、その後のアルバムツアーライブは4月中旬〜5月に掛けての予定で組まれていた。

trysail.jp

ameblo.jp

ameblo.jp

致し方ない、の一言では麻倉さん本人にとっては済ませられないだろう。ライブが成功裡に終わった今これらの記事を見返しても、悲痛な思いが伝わってくる。

いろいろ準備したりしていたので残念な気持ちはすごくあるのですが、これでよかったんだと思います…うーん、これでよかったんだと言い聞かせてますの方が正しいかも?
麻倉ももオフィシャルブログ もちょっとおしゃべり『ライブ』

開催されるはずだったライブツアーは中止になったものの、このまま『Agapanthus』のライブを終わらせることは出来ない──今回のライブが設定された際の麻倉さんのコメントからはこのような確固たる意思を感じ取れた。

麻倉:2ndアルバム『Agapanthus』の曲を、まだ皆さんに届けられていなかったので、自分の中で、どこか一区切りついていない、ふわふわとした状況だったんです。リリースイベントもやれていなかったですし。だからここでやっと一区切り付けられるのかなと思いますし、(...)
声優・麻倉もも 8thシングル「僕だけに見える星」インタビュー|2ndアルバムを振り返りつつ、ニューシングル、Live 2020 "Agapanthus"に向けての意気込みを語る | アニメイトタイムズ

であるとか、

正直に言うと、アルバムのリリースツアーが中止になってしまったので、私の中ではまだ「Agapanthus」は完結していないんです。
麻倉もも「僕だけに見える星」インタビュー|今だからこそ届けたい、みんなに寄り添う歌 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

など。

4会場6公演が予定されていたライブツアーから、1会場2公演に。さらに、観客は会場規模に対して半分、観客の立ち見と発声は禁止という、現在の情勢下ではやむを得ないとはいえ厳しいレギュレーションが課された。しかしながら、アルバム 『Agapanthus』 のライブを──観客を迎え入れる形で──なんとか開催できるに至ったのだ。

ameblo.jp

私個人としては、今回のライブはツアーライブの延期だとか、あるいは代替のライブではないと考える。それは予定されていたものとは形を変えたライブの、開催にいたった経緯もそうであるし、ライブ開催の直前、麻倉さんの新たなシングル『僕だけに見える星』の発売もされたからだ。

このシングル『僕だけに見える星』はアルバム『Agapanthus』の発売後にリリースされたもので、当然『Agapanthus』に収録されてはいない。そうであれば、今回のライブは『Agapanthus』のライブであり、また『僕だけに見える星』のライブなのである。

グッズ等に関しては他の方に任せるとして、セットリストを追っていこう。

[両日共通]Movie1〜01.『Agapanthus』

麻倉さんが「あなた」に向けて手紙を書くムービーが再生されたのち、アルバム表題曲『Agapanthus』が披露される。

アガパンサス花言葉は「ラブレター」等のようで、それにちなんだのもあるのだろう、共に植えたアガパンサスのことを今は離れてしまった「あなた」に向けて綴る様子が描かれる。

その後歌われた開幕曲『Agapanthus』は本人たっての希望により、薄紫のドレスを纏い、メインステージを満開のアガパンサスの花で囲み、紗幕に幻想的な映像を映すという凝りに凝った舞台演出となっていた。(現地では両日ともホールの下手側最上階席だったため、花畑も映像もほとんど確認できなかったのが残念だが。)

アガパンサスの花といえば、アルバム発売、およびツアーライブ発表時の企画で麻倉さんが鉢植えにアガパンサスを植えた1 が、その後もなかなか咲かなかったことを思い出す。2 肌寒い時期になってしまったが、まさに今ここでアガパンサスが開花したのであった。

1日目は開幕のこの曲で、いつもの麻倉さんのような声の通り・響きをあまり感じられなかった。それもそのはずで、後のMC、およびアフタートークでも触れられるが、幕開けに広がるペンライトを目にした麻倉さんは思わず涙を浮かべてしまい、歌うことが出来なかった、とのことだった。

www.youtube.com

[両日共通]02.『スマッシュ・ドロップ』 03.『カラフル』 04.『トキメキ・シンパシー』

『Agapanthus』のためだけのドレスはもう着替えてしまい、僅かな暗転ののちにビビッドなピンク色のワンピース衣装で麻倉さんとバックダンサーが登場。4人のダンサーもそれぞれ色だけが変えられた、鮮やかな単色の衣装を着ていて、さながら戦隊シリーズだ、というファンの声もあったようだ。

この衣装で歌う2曲目は『スマッシュ・ドロップ』。ダンサーとお揃いの5色の衣装はタイアップ先の『パズドラ』を彷彿とさせる。マイクも手持ちからヘッドセットに変わっており、本人名義のライブでは初挑戦だというMV準拠の大きな振りのダンスが見られた。ヘッドセットマイクによるダンスとは言っても、曲調も相まってキュートで可愛らしい雰囲気であるのが麻倉さんらしさと言えるだろうか。

www.youtube.com

ちなみに、このライブに向けていくつかの動画が投稿されていたのが、『スマッシュ・ドロップ』はダンスのリハーサルがフル尺で上げられていて、この時すでに本格的なダンスをすることが示唆されていた。

www.youtube.com

3曲目『カラフル』は1stアルバム『Peachy!』収録ではあったが、この曲も事前に振り付け動画を出されていて、このライブで歌われることが当確していた。

www.youtube.com

麻倉さんとダンサーの衣装も文字通りカラフルであれば、ファン側も「カラフル」だ。

大きさも違う(カラフルだね)
性格も違う(カラフルだね)
顔だって違う
こんなに楽しい出逢い ありがとう ホント
麻倉もも 『カラフル』 )

それぞれが異なった人たちが、それにも関わらずこのライブ会場に一堂に会しているのであれば、これはもう振りコピで一体感を分かち合うしかないじゃないか、ということだ。(まあ後はMVでもサビで振り付けがあるのでファンが見慣れている、というのもあると思うが。)

www.youtube.com

4曲目『トキメキ・シンパシー』はシングルカットされた前の2曲と比べると歌声の振れ幅はやや平坦ではあるものの、バックミュージックが意外と激しく、やはりヘッドセットマイクで両手を空けての振りが似合う曲だ。この曲はメロディーが完成したときからライブでダンスをするという想定があり、歌詞もその想定に合わせてオーダーされている、とのこと。センターステージへ移動をしつつ、ときどき真正面から抜くとダンサーと共に画になるような構図を取っていて、配信のカメラワークが映える1曲であった。

この記事を書いているときにやっと気が付いたのだが、

ハートは進化中 輝くミライ
描きたいな カラフルに
麻倉もも 『トキメキ・シンパシー』 )

だとか、

イロトリドリ 彩る まるで 魔法みたいだね
麻倉もも 『トキメキ・シンパシー』 )

あたりに衣装とのシンパシーを感じる。

ヘッドセットによるパフォーマンスはこの曲まで。アフタートークでは、大変だったのはダンスの振りだけではなくヘッドセットを通した歌声の響き方も通常とは異なるものだったため、このパートは課題となった、とのことであった。

[両日共通]MC1〜Movie2

1回目のMC。1日目は前日に色々な思いが交錯し深夜まで眠れず、レッスンなどをしてすごしていたこと、そのようなこともあってか、先の『Agapanthus』にて、沢山のペンライトを目に思わず涙ぐんだことを話していた。打って変わって2日目はリラックスしてしっかり眠れたことや、また、アルバム『Agapanthus』のコンセプトについても「恋の歌をギュッと詰め込みました」と語っていた。アガパンサス花言葉「ラブレター」にも触れ、ファンレターに励まされた話も。「しばらく会えない中でも貰えるファンレターに元気付けられる、送る側も心が温まっていてくれたら良いな」という演者とファンの相互の応酬が美しい。

ムービー2つめ、「新緑の季節」になっても会えない「あなた」を案じ、手紙を書く麻倉さん。葉を生やしたアガパンサスに水やりをしつつ、「咲かない花は無いよね」と手紙で問いかける麻倉さんが強く印象に残る。

[両日共通]05.『"さよなら"聞いて。』 06.『Twinkle Love』

3着目の衣装、白いドレスに白のロングブーツは、さながらウェディングドレスのようだ、という声も。バックステージにマイクスタンドを立て、スポットライトの下でしっとりと歌い上げたのは『"さよなら"聞いて。』。後述するように様々な恋の歌が集まったアルバム『Agapanthus』の中でもこの『"さよなら"聞いて。』は単に恋愛が成就するだけでない、ある種の悲恋の歌となっている。朗らかな曲調にあってどこか切なさをこの曲から感じるのはそのシンプルな舞台演出からだろうか、あるいは楽曲の世界観に引き寄せられたのか。

『Twinkle Love』ではマイクを手に持ち、センターステージへ。そこにはソファや傘のついたフロアライト、ノートパソコン?ワープロ?状の機械が机に置かれていたりと、さながら麻倉さんの部屋を覗いているよう。楽曲も夜寝る前に「君」を想うといったもので、麻倉さんの得意とする少女マンガ的世界観が溢れていた。

[1日目]07.『ずっと君のことが好きなんです。』 [2日目]07.『星空を想えば』

演出上は『Twinkle Love』とひと続きであるが、公演によって曲目が別れるため別建てで。どちらの曲もセンターステージの「部屋」で手紙を書く演出も交えながら、ゆっくりと花道を進み、メインステージに降り立つ。2日目の『星空を想えば』は『Twinkle Love』に続く夜の曲で、際限なく広がる星空のような伸びやかな歌声に、ミラーボールやウェーブなどの定番ながらも王道の演出がピッタリとハマる。(ずっと君のことが〜は正直に言えば記憶が薄い。)

[両日共通]MC2〜[1日目]08.『さよなら観覧車』[2日目]08.『花に赤い糸』

ここはMCというより、一種の口上と言った方が良いかもしれない。両日共通で、スポットライトに照らされた麻倉さんが語るのは、今年起きた「日常」の変化、当たり前の有り難さ。「想い」を伝える機会そのものが減ってしまった中、次に歌うパートではその「想い」を込めるという。

そのようにして選ばれたのが、1日目は『さよなら観覧車』、2日目は『花に赤い糸』。

『さよなら観覧車』は「わたし」の失恋の歌となっているが、このパートでの選曲であることを考えれば、ファンと共にあるはずだった未来が失われてしまった、などと換言すべきであろうか。あるいは、ツアーの中止が決まった際の麻倉さんは、この曲の「わたし」のようにある種の停滞をしていたのかもしれない。

そして『花に赤い糸』だ。1日目でこのようなパートがあることがわかっていたからこそ、タイアップがついて曲の意味合いが明確に規定されている『花に赤い糸』がここで選ばれるとは露ほども思ってはおらず、ひどく驚かされた。しかし、恋愛としての意味合いを抜けば、麻倉さんからファンへの痛切な思い──そう言われても納得させれるような圧巻の力を持っていた。この曲は趣向の凝った舞台演出も無いし、振りもごくシンプル。歌の力ただ一つで、ひたすらに圧倒され、心震わされていた。

この曲が歌われるところを見るのは『Peachy!』のライブに続いてまだ2回目であるし、私自身作曲については何もわからないのでうまく言い表すことが出来ないのだが、『花に赤い糸』の放つ魅力には抗い難いものがあり、曲が流れるたびに毎回聞き入ってしまう。そしてそれは、今回のライブにおけるメッセージ性の変容でわかるとおり、楽曲の描く世界観をも超えたなにか普遍的なものではないかな、と思う。

www.youtube.com

さて、これはアフタートークで触れられていたのだが、ここの曲調に合わせるために4着目の着替えがあり、やや短かったスカートの丈を長くしたとのことだった。私はあまりにも聴き入りすぎていて言われるまで気付かなかったが。あと遠かったし……。

[両日共通]09.『今すぐに』

続く『今すぐに』は、「遠距離恋愛の切なさ」をオーダーした楽曲とのことだったが、上記の2曲に比べれば麻倉さんとファンの関係として読み替えやすく、まるでこの場のために作られた楽曲かのよう。

今すぐに会いたい 本当は
こうやって思いは募るんだね
麻倉もも 『今すぐに』 )

ストリングスとピアノという音数の少ない演奏構成、スポットライトとオーロラの映像というシンプルな演出(これはMVに近似している)を背に、比喩表現の少ないストレートな歌詞を力強く歌い上げる麻倉さん。曲前のメッセージも相まって、心に響く1曲だった。

www.youtube.com

[両日共通]Movie3,4

ここは映像が連続して流れており映像間での歌があったなどというわけでは無いが、便宜上2本の映像とする。

つぼみが膨らむものの未だ花開かぬアガパンサス、『今すぐに』の歌詞を引いて「あなた」に思いを馳せて筆をとる麻倉さん。劇中で明言されてはいないが、秋の夜長を思わせる情景だ。

季節が移り、ついに「あなた」と会えることになった劇中の麻倉さん。手紙を書く机上にはアガパンサスの花束も置かれている。「あなた」と二人で2年ぶりのライブを見に行く、というストーリー構成は、まさにこのライブの開幕へと繋がっているのだろう。

[両日共通]10.『Good Job!』〜MC3〜11.『明日は君と。』 12.『秘密のアフレイド』

暗転後、赤色主体の光線演出に激しい曲調のインストを経て歌う次の曲は、うってかわってひたすらに楽しい1stアルバム『Peachy!』の表題曲、『Good Job!』。お馴染みの「グッジョブ!」の合いの手こそ入れられないものの、振りコピとマスクの上からの楽しげな表情があればそれで良い。また、再登場したバックダンサーもこれまでの『Good Job!』とはまた一味違った賑やかさを表出させている。

www.youtube.com

このパートで衣装も変更となり、5着目は赤と黒ギンガムチェックにスパンコールがまぶされた、とてもきらびやかなものだ。MCではこの衣装の話や、これまで流されたムービーの振り返り、ちょっとした裏話。ややコンパクトに。

「私の始まりの曲」という言葉と共に歌われた次の曲は、1stシングルの表題曲『明日は君と。』。同じく1stシングル収録の『花に赤い糸』とは対照的に、爽快で青春感に満ちた歌詞を、バンドミュージックを伴って歌い上げるこの曲はこのパートと相性が良い。

www.youtube.com

間髪なく続いて『秘密のアフレイド』。これまでの曲にはあまりないようなロック調を伴い、低い音程で歌うこの曲はファンのリクエストに応えて制作されたものだという。最大限の欲を言えばオルスタで跳ねたい曲であるが、このレギュレーション下においても思った通りの激しい振りや勢い重視の歌い方でノりにノれた。

[両日共通]レクチャータイム〜13.『Shake it up!』

アイマスのライブとかでありそうな、アリーナ・スタンド上手・スタンド下手に分かれてそれぞれ異なったリズムのクラップをしたり、振り付けの指南をしたりとレクリエーション的なパートを経て、アルバム新曲の『Shake it up!』へ。

この曲の前奏のうちに1枚脱いで6着目となった衣装は、オフショルダーの身軽げなもの。バックダンサーも再び登壇し、この曲の明るさを共に表現していく。この楽曲は「ライブを意識」しているとのことで、前述のレクチャータイムと合わせ、最終曲に向けて会場の熱気を更に高める役割を果たしていた。

余談だが、レクチャーされた振り付けはともかく、クラップはどこですればいいのかちょっとイマイチわからなかった。

[両日共通]14.『トクベツいちばん!』 15.『妄想メルヘンガール』 16.『Fanfare!!』

舞台演出上は途切れなく次の曲『トクベツいちばん!』へ。この曲も様々な定番のコール&レスポンスや合いの手ポイントがあるのだが、当然今回は入らず。特に現地だと麻倉さんの歌(とステージ上のパフォーマンス)のみで見るトクいちは何か新鮮なものがあった。

プリプリちぃちゃん!!のファンである身からすると、『トクベツいちばん!』や『カラフル』が聞けるのはいつだって嬉しい。

www.youtube.com

『妄想メルヘンガール』はアルバム新曲であるが、この曲は『カラフル』や『スマッシュ・ドロップ』のように事前に振り付けに関する動画が投稿された曲であるが、それとはまた別に観客の「バックコーラス投稿」企画のあった曲だった。

youtu.be

youtu.be

引き続きバックダンサーも参加したこの楽曲は、歌詞も曲調も楽しげなものであるし、また、投稿していない身で言うのもどうかと思うが、当日流れたバックコーラスの野太さと電子感にちょっとズッコケたりもした。

次の『Fanfare!!』も『Good Job!』や『トクベツいちばん!』と同じく「M・O・M・O」や「Let's go everyone」など定番のコーレスが沢山あるのだが、ファンの発声が出来ない代わりに振りコピをしきりに煽る麻倉さんの姿があった。こうして見ると、コーレス定番曲にはどれもバックダンサーがついていて、欠けたものを意識させない構成が巧みだ。

[両日共通]MC4〜17.『僕だけに見える星』

MCはバックコーラス企画への感謝。様々な障壁があるだろう中で、想定よりも沢山の投稿があったことが嬉しかった、とのこと。そして次の曲『僕だけに見える星』について。これは後述したいと思う。

そうして迎えたアンコール前最終曲『僕だけに見える星』は、個人的に事前の印象との落差が一番激しい曲だった。両日とも、声の通り、力強さ、込められた感情の大きさにただただ圧倒された。最低限の舞台演出のもと、ひたすらに歌が、言葉が、想いが交錯する空間。そのあまりの心地よさ(と舞台の遠さ)でやはり配信を見るまで全く気付かなかったが、振りとして何度か現れた空に弧を描く振りは、「僕」と「君」を繋ぐものなのだろうか、サビの終わりという余韻も相まってとても印象的であった。

www.youtube.com

[1日目]En1.『パンプキン・ミート・パイ』 [2日目]En1.『No Distance』

最終曲『僕だけに見える星』を歌い、会場が暗転。お約束のアンコールパートだが、今や「アンコール」の発声も制限されてしまった。代わりに麻倉さんの再登場を祈る手拍子の音が会場一面に鳴り響く。

そうしてしばらくした後、これもお約束のライブTシャツを着て登場した麻倉さん。満を持して歌うのは1日目『パンプキン・ミート・パイ』、2日目『No Distance』であった。

『パンプキン・ミート・パイ』はアルバム『Agapanthus』のテーマである「恋」と麻倉さんの十八番である少女マンガ的世界観が掛け合わさった、とても「らしさ」のある曲だ。麻倉さん自身もこの曲がファンからの人気があると認識しているようで、アンコール1曲目に相応しい選曲だと思う。

www.youtube.com

対して『No Distance』。聴きたかった曲の一つだが、本編中には選ばれなかったことから今回は歌われないかな、と思っていただけに『花に赤い糸』と同じく度肝を抜かされた。初出はシングル『カラフル』のカップリングであり、3年前の当時はもちろん現在のこのような状況は想定していなかっただろう。だからこそ、今このライブでこの曲を歌うということは、それは麻倉さんから観客への応援歌なのだ。

今は薄暗い空も いつか晴れる時が来る
どんな辛い時だって 笑える日が来る
一人を感じていても わたしは隣にいるよ
気持ちひとつの仲間が いつでもまってる No Distance
麻倉もも 『No Distance』 )

ダンサー紹介をするため落ちサビの演奏を手前に伸ばすような形のアレンジで間奏が入るのだが、音数の少ない演奏とクラップ音との共鳴、サビへの入りがあまりに気持ち良すぎる。

「ソーシャルディスタンスが言われている今、心はNo Distanceだよ」この後のMCで麻倉さんの語った言葉だ。ちょっとしたシャレになっているから少し笑っていたが、心からの言葉だろう。

[両日共通]En2.『ユメシンデレラ』〜MC5〜En3.『365×LOVE』

舞台演出上は前の曲に続き歌われたのが『ユメシンデレラ』。優しく語り聞かせるような歌声は『パンプキン・ミート・パイ』や『No Distance』で高まった会場の熱気を和らげる、クッション材の役割を果たす。

www.youtube.com

MC、麻倉さんより、アンコールの手拍子への感謝。『ユメシンデレラ』では観客がマスクをしていても良い顔をしていることが伝わってきた。観客が無発声のライブは麻倉さんにとっても会場は盛り上がるのだろうかという不安があり、思わず「帰りたい」と口に出してしまうほどであった。しかし、欲しいところで拍手やペンライトを見ることができ、ライブを成功させたいというファンの気持ちを受け取ることができた。

次はアンコール最後の、本当に最終曲と前置いて、『365×LOVE』へ。アルバム『Agapanthus』で最初に発表された曲であり、『Agapanthus』の方向性を形作ったことからアルバムの1曲目に置かれた「はじまり」の曲。このライブが集大成となり、また新たな道が始まっていく予感を抱かせる、「またここからがスタート」という締めくくりの言葉が美しいし、なにより、とびきり明るいこの曲でライブが終わるという多幸感がたまらない。

www.youtube.com

感想 演者とファンの関係性

コロナ禍の逆境をアーティスト活動やライブの深化へと昇華した素晴らしさと、演者とファンが相互に関係し合う暖かさをありありと感じられた。

たびたび触れてきた通り、2ndアルバム『Agapanthus』は様々な恋の歌を集めたアルバムだ。それは、『花に赤い糸』がタイアップ曲として世の中にリリースされ、「ドッキリじゃないか」と思うほどに歌手活動への実感がなかったアーティスト麻倉ももが、1stアルバム『Peachy!』の制作とリリースを経て辿り着いた、「私が表現したいこと」である。

1stシングルが恋の歌だったというのもあるんですけど、小さい頃から私は少女マンガが大好きなんですよ。その少女マンガ的な恋の物語を、自分の歌として届けることが楽しいんだとあるとき気付いて、プロデューサーさんに「私、恋の歌が歌いたいです」って自分から言いました。
麻倉もも「365×LOVE」インタビュー|“恋の歌”を歌い続ける理由 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

や、

1stアルバムの「Peachy!」(2018年10月発売)のときは自分が何をやったらいいのかも、何が好きなのかもまだ不確かな状態だったので、スタッフの皆さんの力を借りつつ模索しながら作っていったんですよ。でも、「365×LOVE」(2019年2月発売の5thシングル)から「私は恋の歌を歌いたい」という気持ちがより強くなって、その集大成が「Agapanthus」なんです。
麻倉もも「僕だけに見える星」インタビュー|今だからこそ届けたい、みんなに寄り添う歌 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

など。

もしも当初のライブツアーが中止にならなければ、アルバム『Agapanthus』のテーマである「恋」が突き詰められたものになっていただろう。3 今回のライブ構成は『今すぐに』後のムービーで前半・後半に分けられ、後者が共に盛り上がるライブであるとするならば、前者は観客により聞かせる、見させるライブにしたかった、とアフタートークで麻倉さんが言っていたが、ライブツアーの名残をその前半パートに見ることが出来るのでは無いかと思う。

ところで、麻倉さんはこの一年を通してライブについて考えているようだった、と言っていた。1月にライブツアーを発表し、一度5月に中止となるものの、11月に今回のライブが無事開催され、12月に配信とアフタートーク。一年を通してというのも全く過言ではない。

その考え続けてきた一年において、一時的にとはいえ、アルバム楽曲を歌う機会、ファンと対面する機会を失った麻倉さんが辿り着いた境地が『僕だけに見える星』だったのだろう。

やっぱり今こういう状況で、ライブもイベントもできなくてお家にいる時間も多くなって、みんなの元気がなくなっているような感じがしていて。それを踏まえて「次のシングルはみんなに寄り添えるような曲がいいな」みたいなことをふわっと考えていたんです。(...)
麻倉もも「僕だけに見える星」インタビュー|今だからこそ届けたい、みんなに寄り添う歌 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

もちろん、麻倉さんのファンに対する視線というのは以前からあったものだが、4 より深く考えさせられたのが今回の感染症流行による日常の変化なのではないだろうか。「今回のシングルは(...)よりみんなに寄り添いたい、こういうものを届けたい、という思いで作った曲」と、2日目の『僕だけに見える星』直前のMCの麻倉さんは語る。今回の『No Distance』やあるいは『さよなら観覧車』『花に赤い糸』『今すぐに』も麻倉さんからのメッセージだろう。

しかしその関係性は、麻倉さんから「みんな」への一方向では無い。例えば『妄想メルヘンガール』。

今回のツアー、いろいろできない事が多いんですが、声を出せないのであれば妄想メルヘンガールはやりたくないなあと思っていました…。みんなの声が入って100%なので!!!!
麻倉ももオフィシャルブログ もちょっとおしゃべり『ライブに向けて』

ここまでの言葉は普段の麻倉さんからはおよそ聞くことが出来なそうな悲愴感のあるものだ。それだけに、この投稿企画をもって『妄想メルヘンガール』を歌えるようになったということであれば、ファンの存在が麻倉さんにとっていかに大きいのだろうか。

あるいは『カラフル』の振り付け動画や、『ユメシンデレラ』後のMC。麻倉さんは虚空に向けてではなく、応援してくれる「みんな」に向けて楽曲を届けたいのだ。であればこそ、1日目の楽曲『Agapanthus』の涙は、ペンライトが、「みんな」が変わらずそこにいるという「安心」の涙なのだ。そしてまた、幕引きにマイクオフで直接伝えた挨拶が「ありがとうございました」ではなく、「また会いましょうね」なのだ。

「みんな」に支えられ、信頼関係があると言い切る麻倉さんは、ヘッドセットマイクのパートや『秘密のアフレイド』で見た観客の新鮮な反応を糧に、また新たな楽曲を制作したいと奮い立った様子であった。

演者とファンが支え、支えられ、お互いに前を向いていける関係。これほどまでに素敵で美しい関係性があるだろうか。

素晴らしいライブでした。

参考にしたサイト

リリースインタビュー

ライブレポート


  1. もちょからのおしらせ (1/25/2020) - YouTube 20:50ごろより。

  2. Instagram @mocho_10secで経過報告をしていたりもした。ライブ中のMCで苦笑いしつつ触れられていた麻倉さんのアガパンサスは最後まで咲かずじまい、だった気がする。

  3. アルバム『Agapanthus』では唯一今回のセットリストに入らなかった『シュークリーム』も、ツアーでは歌う予定だった。アフタートークより。

  4. 麻倉さんがアーティスト活動を続ける動機、アルバム『Agapanthus』で恋の歌を歌い続けていたそもそもの動機がファンに向けてのものである。 https://www.famitsu.com/news/202003/27195454.html より。